民事信託の契約書はどのように作成するかご存知でしょうか。
今回の記事では、そんな民事信託契約書の書き方や自分でも作成できるのかについて解説します。
目次
民事信託契約書の書き方
まずは民事信託契約書の書き方について解説します。
①契約書に記載する項目
民事信託契約書に記載する項目は下記の3点あります。
- 契約の趣旨
- 信託する目的
- 誰が誰に何を信託するか
- 信託した財産をどのように管理するか
それぞれの項目について解説します。
契約の趣旨
当該契約が、信託契約であると明らかにするために記載します。
信託する目的
民事信託で達成したい目的について記載します。
記載例:「受益者の生活の安定をはかる」「円滑な資産の承継」等
誰が誰に何を信託するか
委託者・受託者・受益者・信託財産を記載します。
委託者(誰が):受託者に財産を預ける人のこと(現在の財産の所有者)
受託者:財産を預かって管理・処分を行う人のこと
受益者(誰に):信託財産から経済的な利益を受ける人のこと
信託財産(何を):委託者が保有する財産のうち、信託契約によって預ける財産のこと
信託した財産をどのように管理するか
信託した財産の管理方法について記載します。
②民事信託契約書は公正証書で作成するのがおすすめ
信託法では、民事信託契約書の方式について、特に定めがありません。
とはいえ、財産の管理や承継、場合によっては委託者が亡くなった後の跡継ぎ遺贈と同じ効果をもたらす内容も信託で実現することができます。
やはり信託の成立に争いが生じないようするためには公正証書によることが望ましいでしょう。
民事信託契約書を公正証書で作成するメリットやデメリットについては下記記事で詳しく解説しております。
民事信託契約書は公正証書にするべき?メリットデメリットをご紹介!
民事信託契約書の作成の流れ
民事信託契約書を作成する際の流れについて順番に解説します。
1 財産の管理・承継、身上監護について考える
信託を組成するにあたっては、まずは財産の管理・承継、身上監護について思い描いてみましょう。
この際には、信託では扱えない身上監護についてはどうするのか(別で任意後見契約を締結するか等)、信託では取り扱わない財産をどうするか(別で任意後見や遺言で対応するか)、といった全体像を明確にします。
どういった財産があるのか、財産それぞれをどのように管理したいか、承継させたいか、自身の生活はどうしたいか、そういったイメージから必要な制度(信託、任意後見、遺言等)を組み合わせて活用することを検討します。
さらに、思い描く信託を組成した場合に想定外の課税がされるといったことはないか、将来、相続でもめないか(遺留分侵害額請求など)といったことも検討し、信託、任意後見、遺言の内容を調整します。
また、委託者、受託者、受益者以外に信託監督人や受益者代理人といった立場の人も活用するかを検討します。
2 関係者への説明
信託契約自体は委託者と受託者で作成できます。
しかしながら、信託が始まってからは、信託監督人、受益者代理人、帰属権利者、後継の受託者として指名された方にも影響が及びます。
そこで、信託契約の内容や趣旨については作成する前に、受託者はもちろんのこと、信託監督人、受益者代理人、帰属権利者、後継受託者など、信託に関わることになる方々に説明をし、理解しておいてもらう必要があります。
3 具体的な条項の作成
民事信託契約書に記載する内容としては大きく分けると、①信託の目的、②信託財産、③委託者、④受託者、⑤受益者、⑤信託事務、⑥受託者の義務、⑦受益権、⑧信託終了時・財産の承継について、ということになります。
民事信託契約書は、委託者が契約後に判断能力が衰えても、場合によっては死亡しても、効力が維持されます。
したがって、長い年月が経った後に、作成に携わっていない人が見ても、誰が何をしなければならないのか、どういう義務があるのか、誰にどんな権利があるのか、財産はどのように管理されるのか、承継されるのかが分かるように、明確に定められるべきです。
また、信託法では受託者の義務(善管注意義務、忠実義務、公平義務、分別管理義務)をはじめ、信託契約で定められていなくとも、個別の信託へ影響する条項が多く定められていますが、実際に多くの受託者が委託者らの親族であり必ずしも法律に詳しくない、法令を確認することに慣れていない方が多いと思われます。
ですので、信託契約書さえ見れば、何をすべきか、どういう義務があるかといったことが分かるよう、信託法に定められていることでも、信託契約書にも敢えて盛り込むと、誰がみても何をすればよいか、どのような権利義務があるかが分かりやすい信託契約書になります。
4 金融機関との打ち合わせ
民事信託では、受託者が信託財産のうち金銭を管理する方法として信託口口座を開設することが多いかと思います。
また、場合によっては、融資を受けることもあるかもしれません。
信託口口座の開設や融資について盛り込んだ内容の民事信託契約書を委託者と受託者との間で作成しても、いざ金融機関に信託口口座を開設しようとすると断られる、融資が受けられないということがあり、裁判になった事例もあります。
このようなことが起こらないように、信託口口座の開設や融資の可否等について、事前に個別の金融機関に相談、打合せをしておく必要があります。
民事信託契約書は自分でも作成できる?
結論、民事信託契約書はご自身でも作成することは可能です。
とは言え民事信託契約書は自分でも作成できるかどうか不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。
この章では、民事信託契約書を自分で作成するメリットとデメリットについて解説します。
メリット・デメリットを踏まえてご自身で作成するのか、専門家に依頼するのかご検討ください。
民事信託契約書を自分で作成するメリット
ご自身で民事信託契約書を作成するメリットは費用を抑えられるという点です。
ある程度民事信託についての知識があり、費用をあまりかけたくない方にとってはメリットとなりえるでしょう。
民事信託契約書を自分で作成するデメリット
ご自身で民事信託契約書を作成するデメリットは手間がかかるという点です。
民事信託は難易度が高い手続きであり、契約書を作成するには事前に相当勉強する必要があります。
民事信託についての知識があまりない場合、勉強する手間や時間がかなりかかり、大きな負担がかかります。
また、契約書に不備があった場合に不動産が売却できない・銀行で手続きができないなどのトラブルのリスクもあります。
このような手間やリスクについてご理解した上でご自身で作成すべきか、専門家に依頼すべきかをご検討ください。
民事信託契約書は自分でも作成できるが、専門家に依頼した方が安心
ご自身で民事信託契約書を作成するのは難しそうという方は専門家に依頼すれば安心です。
民事信託契約書の作成は、弁護士や司法書士に依頼することが可能です。
まとめ
以上、民事信託契約書の作成の流れをお伝えしましたが、そんなに簡単なものではないと思われた方が多いかもしれません。
弁護士や司法書士でも、民事信託契約書の作成は簡単なことではなく、相続や税務や登記の問題などについても調べながら、個別のケースやご事情に合わせて適切なスキーム(信託だけではなく、任意後見、遺言、その他の制度の併用)を検討し、関係者への説明、打合せを重ねて作成していくことになります。
ですので、民事信託はご自身たちで作ることは法律上規制されていませんが、将来的なトラブルや問題にならないようにするために、専門家に依頼されることをおすすめします。